2026年に公表された二つの世界都市観光ランキングは、異なる都市を首位に選んだ。英国版『Condé Nast Traveller』の読者投票ではバンコクが97.68点で1位。一方、Yanolja Researchがパデュー大学、慶熙大学と共同でまとめたGlobal Tourism City Attractiveness Indexではニューヨークが1位となった。
両者が答える問いは異なる。読者が最も高く評価した都市はどこか。オンライン上の認知度や好意的な反応を用いた魅力度指標で上位に立つ都市はどこか。いずれも2026年通年の外国人訪問者数のランキングではない。10月23日時点では年末を迎えておらず、全都市を同じ基準で比較できる通年の確定統計も存在しなかった。
そこで本稿は、まず公表済みの2026年の上位10都市を示し、次にEuromonitor Internationalの2025年版による国際到着者数と、別途公表された2024年版の数字を検証する。観光収入は集計済みの年次統計か、推計であることを明示した数値のみを扱う。人気、訪問者数、経済効果を同一視してはならない。
2026年の世界の人気都市トップ10
英国版Condé Nast Travellerは2026年10月6日にReaders' Choice Awardsを発表し、Yanolja Researchは7月に指数を公表した。以下は目的地の魅力を異なる方法で評価したランキングであり、入国件数や宿泊者数ではない。
| 順位 | Condé Nast Traveller英国版2026(得点) | Yanolja Research 2026(総合順位) |
|---|---|---|
| 1 | バンコク(97.68) | ニューヨーク |
| 2 | パリ(97.14) | パリ |
| 3 | イスタンブール(96.67) | 大阪 |
| 4 | ローマ(95.96) | 京都 |
| 5 | バレッタ(95.76) | ソウル |
| 6 | 上海(95.19) | ロンドン |
| 7 | 東京(94.76) | ローマ |
| 8 | ソウル(93.76) | バンコク |
| 9 | シドニー(92.72) | 沖縄 |
| 10 | アムステルダム(92.44) | シカゴ |
出典は英国版Condé Nast Travellerの2026年Readers' Choice Awardsと、Yanolja Researchの2026年Global Tourism City Attractiveness Index。後者は14言語のオンライン上の会話を基に261目的地を評価し、認知度と好意的な感情を組み合わせた。沖縄は広い地域を指す名称だが、この指数では一つの目的地として扱われる。
二つのトップ10に共通するのはバンコク、パリ、ローマ、ソウルの4都市だけだ。ニューヨークはYanoljaで首位だが英国の読者投票では18位。バンコクは読者投票で1位、Yanoljaでは8位である。どちらも「訪問観光客が最も多い都市」の順位ではない。
2026年の国際到着者数を厳密に比較するには、同じ定義による年次データを待つ必要がある。現時点ではEuromonitorの2025年版を客数の基準とし、2024年版を背景資料として利用する。
2025年版の国際到着者数上位10都市
表はEuromonitorが2025年版で公表した国際到着者数の推計値を順位順に示し、2024年版に記載された数値を併記した。いずれも対象年の終了前、12月上旬に発表された値で、異なる報告時点の推計である。各都市の公的な確定統計や一貫して改訂された時系列とみなしてはならない。
| 2025年順位と都市 | 2024年(百万人回) | 2025年(百万人回) |
|---|---|---|
| 1. バンコク、タイ | 32.4 | 30.3 |
| 2. 香港 | 20.5 | 23.2 |
| 3. ロンドン、英国 | 21.7 | 22.7 |
| 4. マカオ | 18.0 | 20.4 |
| 5. イスタンブール、トルコ | 23.0 | 19.7 |
| 6. ドバイ、アラブ首長国連邦 | 18.2 | 19.5 |
| 7. メッカ、サウジアラビア | 19.3 | 18.7 |
| 8. アンタルヤ、トルコ | 19.3 | 18.6 |
| 9. パリ、フランス | 17.4 | 18.3 |
| 10. クアラルンプール、マレーシア | 16.5 | 17.3 |
出典はEuromonitor InternationalのTop 100 City Destinations Index、2024年版と2025年版。2025年の全順位はTime Outなど同じデータに基づく報道でも確認した。単位は百万回、少数第1位までの概数。
バンコクは両版で首位だったが、2025年版の推計値は前年の版で公表された数字より小さい。香港とマカオは順位を上げ、ロンドンはトップ10内で欧州最高位を維持した。訪問者数には航空網、国境越え、ビザ、乗り継ぎ拠点としての役割、旅行形態が関わる。景観だけでは説明できない。
訪問者数上位10都市の背景
以下の順位と国際到着者数はEuromonitorの2025年版に統一した。各地の公的統計とは対象地域や定義が違う可能性がある。2026年については注目要因を示すもので、都市別の訪問者数や収入の予測ではない。
1. バンコク、タイ
2025年の国際到着者数は推計3,030万回で首位。2024年版は3,240万回だった。王宮や寺院、屋台料理だけでなく、空の交通、医療、ビジネス、国際会議、タイ国内への移動拠点としての機能が強みだ。訪問の目的も消費額も旅行者によって大きく異なる。

タイ人と外国人の双方を含むバンコクの地域別観光収入は2025年が8,966億バーツ (約272.8億 USD)、2024年が9,422億バーツ (約267.0億 USD) だった。対象集団が違うため、この金額をEuromonitorの外国人到着数で割って外国人の平均消費額とすることはできない。
2026年は英国の読者投票で1位だった一方、Yanoljaのオンライン魅力度では8位。滞在日数、1泊当たり支出、旅行の安心感、そして観光収入がタイの企業や労働者にどれだけ届くかが重要だ。
2. 香港
香港は2025年に推計2,320万回の国際到着で2位となり、2024年版の2,050万回を上回った。貿易、飲食、会議に加え、中国本土との鉄道・陸路の結びつきが宿泊客と短期訪問客の双方を呼び込む。

香港政府統計処による2025年の宿泊を伴う訪問は23,190,097回、日帰りは26,704,735回で、合計49,894,832回だった。この約4,990万回をEuromonitorの2,320万回と置き換えるのは誤りだ。日帰り客が含まれ、定義も一致しない可能性がある。
2026年の課題は短期訪問をホテル、飲食店、小売店、観光施設での消費につなげること。宿泊比率、滞在時間、1人当たり支出は国境通過数だけより有用だ。
3. ロンドン、英国
ロンドンは2025年に推計2,270万回の国際到着で3位。2024年版は2,170万回だった。博物館、劇場、大学、金融業、多数の国際空港が年間を通じてビジネス、文化、教育目的の旅行を支えている。

VisitBritainが2026年10月16日に発表したInternational Passenger Surveyの更新では、2025年にロンドンを訪れた海外からの訪問が約1,930万回、支出が158億ポンド (約208.4億 USD) と推計された。Euromonitorの数字とは異なるが、英国側も調査方法を見直し中であり、どちらかの誤りと断定できない。
2026年は高い交通費・宿泊費の中でビジネス、文化、教育需要を維持できるかが焦点となる。客数が増えなくても滞在の長期化や単価向上で収入は増え得る。
4. マカオ
マカオは推計2,040万回で4位、2024年版は1,800万回だった。大型ホテル、娯楽、飲食、買い物、会議は中国本土や香港からの短期訪問者に大きく依存している。

2025年の公式な訪問総数は40,069,360回で、日帰り23,524,943回、宿泊16,544,417回。平均滞在は全体で1.1日だった。非博彩分野の観光客支出総額は6.3%増えたが、1人当たり支出は7.3%減少した。訪問者が増えても旅行1回の経済価値が高まるとは限らない。
2026年上半期の非博彩支出は前年同期比17.4%増だった。ただし半年の結果であり、ギャンブルを含まないため観光収入全体ではない。ホテルや飲食店、中小事業者への波及も確認が必要だ。
5. イスタンブール、トルコ
Euromonitorは2025年の国際到着を推計1,970万回、2024年版では2,300万回と記した。欧州とアジアの接点にあり、アヤソフィアやトプカプ宮殿などの歴史遺産と国際空港、会議、乗り継ぎ旅行を結び付ける。

トルコの入国統計は国境通過地点を数える場合があり、ホテル統計は宿泊者や宿泊夜数を数える。単なる乗り継ぎ、街に滞在する人、国内の別地域へ向かう人を区別しなければならない。Euromonitorの別々の版の数字を直接引いて年間成長率とするのも適切ではない。
2026年の強みは通年で多様な旅行を受け入れること。サービス費用、為替、観光地への交通、地域情勢への信頼はリスクだ。地元企業の収入と宿泊夜数を客数と併せて見る必要がある。
6. ドバイ、アラブ首長国連邦
ドバイは2025年推計1,950万回で6位、2024年版は1,820万回だった。長距離航空網、ホテル、買い物、展示会、会議を通じ、休暇、ビジネス、乗り継ぎ需要を結び付けている。

ドバイ経済観光局による2025年の国際宿泊客は1,959万人、2024年は1,872万人で、同局の定義では5%増。Euromonitorの1,950万回に近いが、同じ統計系列として置き換えられるわけではない。
2026年の好機は航空の利便性を宿泊数、小売売上、高付加価値のビジネスイベントに結び付けること。ホテル間競争、旅行費用、出発国の景気が客室収益と1人当たり支出を左右する。
7. メッカ、サウジアラビア
メッカは2025年に推計1,870万回で7位、2024年版は1,930万回だった。一般的な観光都市と違い、ハッジとウムラの巡礼が需要の中心で、時期、規制、受け入れ体制に独自の条件がある。

サウジアラビアのPilgrim Experience Programは、2025年に全国で海外からのハッジ・ウムラ巡礼者が約1,950万人いたと発表した。これは全国の数字であり、メッカ市だけの宿泊客数でもEuromonitorの都市到着者数でもない。単純に差し引いて比較してはならない。
2026年は巡礼のピーク時の安全、交通、宿泊、サービス品質が重要となる。ホテルや巡礼サービスの収入と、インフラや混雑管理の費用を併せて評価する必要がある。
8. アンタルヤ、トルコ
アンタルヤは推計1,860万回で8位、2024年版は1,930万回だった。イスタンブールとは異なり、地中海の海辺、リゾート、パッケージ旅行、短距離便やチャーター便が中心だ。ロシア、ドイツ、英国が重要市場である。

トルコ観光当局によれば2025年1月から10月までに外国人訪問者は1,630万人を超えた。アンタルヤ空港の年間旅客は約3,910万人だったが、国内便と出発客も含むため、外国人観光客が3,910万人来たという意味ではない。
2026年は夏以外の需要開拓、宿泊供給の管理、欧州からの旅行費用とエネルギー費用が課題。空港拡張は受け入れ能力を高めるが、パッケージ価格が下落すれば1泊当たり収益は保証されない。
9. パリ、フランス
パリは2025年推計1,830万回で9位、2024年版は1,740万回だった。しかしEuromonitorの総合都市指数では首位、2026年の英国読者投票では2位。文化、芸術、ファッション、料理、交通などの魅力が必ずしも最多の客数に結び付くわけではない。

Choose Paris Regionは、2025年のパリとイル・ド・フランス地方全体の訪問者を約5,000万人、そのうち国際訪問者を2,300万人超、観光の経済効果を約240億ユーロ (約271.3億 USD) とした。これは地域全体の数字で、市の境界内の収入でもEuromonitorの1,830万回と同一集団の支出でもない。
2026年は2024年五輪後の関心を再訪と長期滞在につなげ、宿泊価格、公共空間、住民の満足度も管理することが課題だ。
10. クアラルンプール、マレーシア
クアラルンプールは推計1,730万回で10位、2024年版は1,650万回だった。交通と会議、買い物、食文化、周辺へのアクセスが強みで、国内旅行需要も地域のサービス業を支える。

マレーシア統計局は2025年のクアラルンプール連邦直轄領の国内訪問者を3,510万人、国内観光支出を169億リンギット (約39.5億 USD) と報告した。これはマレーシア国内の訪問者の数字で、Euromonitorが推計した1,730万回の国際到着による収入ではない。
Visit Malaysia 2026キャンペーンは都市への関心を高め得るが、収入は宿泊、移動、ホテル、小売、実際の支出次第だ。全国の観光客数をクアラルンプールの数字として使うべきではない。
別々の年次報告を引き算して成長率を出してはいけない理由
Euromonitorの2024年版はイスタンブール2,300万回、2025年版は1,970万回と記す。一方、後者の報道には2025年に約6%増えたというものもある。二つの報告をそのまま同じ時系列とみなすと、数字は整合しない。
成長率には基準年、手法、改訂、発表時点の一致が必要だ。公開資料だけでは違いの原因を特定できず、都合のよい改訂後の基準値を作るべきではない。ここでは各版の数字を市場規模の目安に用い、都市ごとの前年比は算出しない。
「最良の都市」は評価する主体によって変わる
読者の好みと実際の訪問者数は別の指標である。
| ランキング | 1位 | 測定対象 |
|---|---|---|
| Euromonitor International 2025 | バンコク | 都市への国際到着者数 |
| Condé Nast Traveller英国版2026 | バンコク | 雑誌読者による投票 |
| Yanolja Research、パデュー大学、慶熙大学2026 | ニューヨーク | オンライン上の認知度と好意度 |
英国の2026年読者賞ではバンコク97.68点、パリ97.14点、イスタンブール96.67点だった。これは回答した読者の評価であり、世界のすべての外国人旅行者を調べた統計ではない。独自の都市区分を持つ米国版Condé Nast Travelerの結果とも分ける必要がある。
Yanolja指数は14言語のオンライン上の会話から認知度と肯定的な感情を測る。ニューヨークがパリ、大阪、京都、ソウルを上回り、バンコクは8位。話題の量や構成が結果を左右し、順位が低いから訪問者が少ないとは言えない。
Euromonitorでも、インフラ、持続可能性、経済、政策などを含む2025年の総合都市指数ではパリが1位なのに対し、国際到着者数ではバンコクが1位だ。両方が同時に正しい。
重要な視点 訪問者数の首位は量の大きさ、好意的な評価は体験の良さを示す。ただし経済的恩恵は、宿泊夜数、旅行者の支出、地元企業と労働者へ届く収入にも左右される。
年間確定統計から分かること
ドバイの2025年の公的な国際宿泊客は1,959万人で、2024年は1,872万人だった。Euromonitorの2025年推計1,950万回と近いが、集計定義が同じとは証明できない。
香港の2025年公式訪問総数4,989万回には日帰りが含まれ、宿泊を伴う訪問は2,319万回だった。マカオも日帰り客が多い。こうした総数を別の対象集団を使う推計値と直接比較できない。
到着者数は需要と都市インフラへの圧力を示し、宿泊夜数はホテルや飲食店の活動に近い。旅行者が1回来るたびに一定額の収入が生まれるという仮定は成り立たない。滞在時間と支出に大きな差があるからだ。
バンコクの2024年と2025年の観光収入が示すもの
ThailandStatsが2026年9月にまとめたタイ観光・スポーツ省の地域別統計によると、バンコクの訪問者収入は2024年が9,422億バーツ (約267.0億 USD)、2025年は8,966億バーツ (約272.8億 USD)。タイ人と外国人の双方を含み、バーツ建てでは約4.8%減少した。
米連邦準備制度の年間平均為替相場を用いた換算では、2024年は1 USD=35.2845バーツ、2025年は32.8619バーツ。バーツ建て収入は減ったが、名目USD換算額は増えた。バーツ高による換算効果であり、実質的な観光成長の証拠ではない。
この地域別収入をEuromonitorの国際到着数に直接結び付けることはできない。またタイの旧統計年鑑には改訂前の2024年数値が少し異なる形で掲載されていた。本稿では同じ改訂系列の2年を比較している。
2026年に観光都市は何で稼ぐのか
Tourism Economicsが2026年2月に公表し7月に更新したTravel Spending in Citiesは、Global City Travelデータベースに含まれる340超の都市で2026年の国際旅行者支出が合計9,310億 USDに達し、2031年には1.36兆 USDになると予測した。この都市群は国際宿泊夜数の約41%を占める一方、支出では約49%を占める。
9,310億 USDは340超の都市全体の推計であり、Euromonitor上位10都市やバンコク単独の収入ではない。1泊当たり支出、高付加価値サービス、地元経済に残るお金が多ければ、短期滞在客の単純な人数より大きな利益を生む可能性がある。
支出構成も地域によって違う。欧州都市では宿泊費が大きな比重を占め、米国都市では小売支出が目立つ。アジア太平洋の一部市場では飲食費の比率が比較的低い。旅行者数と各業種の売上は同じ割合で増えるとは限らない。
バンコクの2026年観光収入を三つのケースで考える
2025年の収入8,966億バーツ (約272.8億 USD)を出発点とし、2026年が5%減、横ばい、5%増となる編集部による感応度分析を行う。三つとも研究機関の公式予測ではなく仮定のケースである。
| 2025年からの変化 | 2026年バンコク収入の仮定 | 意味 |
|---|---|---|
| 5%減 | 8,518億バーツ (約253.1億 USD) | 訪問数や1回当たり支出が減少 |
| 横ばい | 8,966億バーツ (約266.4億 USD) | バーツ建て収入は一定 |
| 5%増 | 9,414億バーツ (約279.8億 USD) | 宿泊夜数または支出の増加が必要 |
USD換算では2026年10月22日時点のタイ銀行の参考相場1 USD=33.65バーツを全ケースに固定した。年間為替相場の予測ではない。2026年の実績値が公表されるまでは仮定にすぎない。
実際の結果は旅行元の経済、旅行への信頼、滞在日数、ホテル価格、他都市との競争、タイ企業に残る消費額などに左右され、増便やイベントだけで決まるわけではない。
訪問者数が多い都市はこれからどう競うべきか
高い順位は航空会社、ホテル、飲食店、小売店、イベント主催者に商機をもたらす。しかし混雑、ごみ、公共交通の需要、住宅費などの負担も増える。地域に残る収入以上に社会的費用が増えれば、訪問者数の増加は純経済効果の改善を意味しない。
各都市は訪問者数に加え、宿泊1泊当たり収入、雇用の質、所得分配、旅行者満足度、住民負担を測るべきだ。バンコクも毎年訪問者数の記録を更新することより、旅行支出の価値を高め地域への負荷を減らす道を選べる。
結論 バンコクはEuromonitorの2025年国際到着者数推計と英国版Condé Nast Travellerの2026年読者投票で首位だったが、オンラインの都市魅力度指数では8位だった。2026年の収入は人気ランキングから推定せず、過去の実績と不確実性を明示したシナリオで別途検討する必要がある。



